海外リサーチのすすめ┃主な手法や手順、成功ポイントを解説

現代のビジネス環境では、グローバル化が急速に進み、多くの企業にとって海外市場への進出や事業拡大が不可欠な戦略となっています。しかし、海外市場には国内とは異なる競争環境や文化的要素、法規制など、複雑で多様な課題が待ち受けています。

このような挑戦に立ち向かうために欠かせないのが「海外リサーチ」です。

本記事では、海外リサーチの基本的な概要とその重要性をはじめ、具体的なリサーチ手法やステップ、そして成功に導くためのポイントを詳しく解説していきます。これを参考に、貴社のグローバル展開をより効果的に進めていただければ幸いです。

海外リサーチとは

海外リサーチとは、企業が海外市場に進出する際や既存の海外事業を拡大・改善する際に行う、体系的かつ包括的な情報収集と分析のプロセスを指します。単なるデータ収集にとどまらず、収集した情報を深く分析し、実際のビジネス戦略に活用することまでを含む、広範囲かつ継続的な取り組みです。

海外リサーチの対象となる情報は多岐にわたります。市場規模や成長率といった基本的な経済指標から、競合企業の動向、消費者の嗜好や購買行動、流通チャネルの特性、法規制や政治情勢、さらには文化的・社会的背景まで、ビジネスに影響を与えうるあらゆる要素を調査・分析しなければいけません。また、リサーチの結果を単に報告書にまとめるだけでなく、それを基に具体的かつ実現可能性のある戦略を立案する必要があります。

海外リサーチは、グローバル展開を目指す企業にとって不可欠な取り組みです。適切に実施することで、新たな市場機会の発見、リスクの最小化、効果的な戦略立案、意思決定の質の向上などが可能になり、最終的には海外事業の成功確率を高めることができます。しかし、その実施には相応の時間、コスト、専門知識が必要となるため、自社の状況や目的に応じて、最適なアプローチを選択することが重要です。

海外リサーチの重要性

海外リサーチの重要性は、グローバル化が加速する現代のビジネス環境において、ますます高まっています。その重要性は主に3つの観点から理解することができます。市場機会の発見、競争優位の確立、そしてリスク管理です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

市場機会の発見

海外リサーチは、新たな市場機会を発見し、事業拡大の可能性を模索する上で重要な役割を果たします。具体的には以下のような点で有効です。

  • 未開拓市場の特定:既存市場が飽和状態にある場合、海外の新興市場や未開拓市場に目を向けることで、新たな成長機会を見出せます。例えば、McKinsey Global Instituteの報告によると、2025年までに世界の消費の半分以上が新興国で行われると予測されています。このような潜在的な大規模市場を特定し、その特性を理解することは、企業の長期的な成長戦略において極めて重要です。
  • 潜在的な顧客ニーズの発見:海外市場の消費者行動や嗜好を深く理解すれば、自社の既存製品やサービスに対する潜在的な需要を発見したり、新製品開発のヒントを得たりできます。
  • 新たなビジネスモデルの可能性:異なる市場環境や消費者ニーズに触れることで、自社のビジネスモデルを革新的に変革するアイデアを得られます。例えば、シェアリングエコノミーの概念が海外で成功を収めていることを知り、自社のビジネスにもその要素を取り入れるといった具合です。

競争優位の確立

グローバル市場で勝ち残るためには、自社の強みを最大限に活かし、競合他社との差別化を図ることが不可欠です。海外リサーチは、この競争優位の確立に大きく貢献します。以下に、その具体的な効果を3点挙げます。

  • 競合企業の戦略や強み・弱みの把握:海外リサーチを通じて、競合企業の市場戦略、製品・サービスの特徴、価格設定、販売チャネルなどを詳細に分析することで、自社との差別化ポイントやユニークセールスポイントを明確にできます。
  • 自社の強みを活かした現地適応:海外リサーチを通じて、現地の市場環境や消費者ニーズを深く理解すれば、自社の強みを活かした戦略を講じられるでしょう。自社の強みと現地ニーズのマッチングを図ることは、競争優位の確立に不可欠です。
  • ブランド戦略の最適化:現地の文化的・社会的背景の理解は、現地での最適なポジショニングの設計に欠かせません。例えば、ある日本のファッションブランドが、現地の消費者が日本の品質と独自のデザインを高く評価していることを把握した場合、「ジャパン・クオリティ」を前面に打ち出したブランド戦略を展開することで、他社との差別化に成功するでしょう。
  • 技術動向の把握:海外市場における技術革新やイノベーションの動向を把握することで、自社の研究開発戦略や製品開発計画に活かせます。例えば、自動車の部品を提供する製造業者の場合、海外リサーチを通じて電気自動車市場の急速な成長を予測し、早期に電気自動車向けの部品開発に着手することで、市場でのリーダーシップを確立できるかもしれません。

リスク管理

海外リサーチは、海外展開に伴う様々なリスクを最小限に抑えるために不可欠な取り組みです。以下に、リスク管理の観点から見た海外リサーチの重要性を3点挙げます。

  • 法規制リスクの把握:海外での事業展開においては、各国固有の法規制や政策動向を事前に把握し、適切に対応しなければいけません。例えば、EUではGDPR(一般データ保護規則)が施行されており、個人データの取り扱いに関して厳格な規制が課されています。このような法規制を無視すると、重い罰金や法的制裁を受ける可能性があります。そのため、事前に現地の法規制を詳細に調査し、コンプライアンス体制を整備することが不可欠です。
  • 政治・経済リスクの評価:海外リサーチを通じて政治・経済のリスク要因を詳細に分析・評価すれば、適切な投資判断や事業計画の策定が可能になります。例えば、新興市場への進出を検討している企業にとって、政治的安定性や規制の透明性は重要です。政治的リスクが高い地域では、政府の突然の政策変更や規制強化がビジネスに影響を与える可能性があります。そのため、事前にこれらのリスクを評価し、適切なリスク管理戦略を立てなければいけません。
  • 文化的リスクの理解:グローバルビジネスにおいては、現地の文化、価値観、商習慣などを深く理解することが不可欠です。海外リサーチを通じて、これらの文化的背景を十分に把握することで、文化的な摩擦やミスコミュニケーションによるリスクを回避できます。

海外リサーチで得られる主な情報

海外リサーチを通じて得られる情報は多岐にわたり、それぞれが企業の海外展開戦略に重要な示唆を与えます。ここでは、主要な情報カテゴリーについて詳しく解説します。

市場規模

市場規模の把握は、海外展開を検討する上で最も基本的かつ重要な情報です。これには以下のような要素が含まれます。

  • 現在の市場規模:対象製品・サービスの現在の売上高や取引量。
  • 市場成長率:過去数年間の成長トレンドと今後の成長予測。
  • 市場セグメント:年齢層、所得層、地域などによる市場の細分化。
  • 市場の成熟度:導入期、成長期、成熟期、衰退期のどの段階にあるか。

競合状況

競合分析は、自社のポジショニングを決定し、競争戦略を立案する上で不可欠です。主な分析ポイントは以下の通りです。

  • 主要競合企業の特定:市場シェア上位の企業や注目すべき新興企業。
  • 競合製品・サービスの分析:特徴、価格帯、品質、ブランドイメージなど。
  • 競合企業の戦略:マーケティング手法、販売チャネル、新製品開発など。
  • 競合企業の強み・弱み:SWOT分析などを用いた総合的評価。

消費者動向

ターゲット市場の消費者を深く理解することは、製品開発やマーケティング戦略の立案に不可欠です。主な調査項目には以下があります。

  • 消費者の嗜好:好みの色、デザイン、機能、ブランドなど。
  • 購買行動:購入頻度、購入場所、意思決定プロセスなど。
  • ニーズと不満:現在の製品・サービスに対する満足度や改善要望。
  • ライフスタイル:日常生活の習慣、価値観、趣味・関心など。

流通構造

製品・サービスを効果的に消費者に届けるためには、現地の流通構造を理解することが重要です。主な調査項目は以下の通りです。

  • 小売チャネル:主要な小売形態(スーパーマーケット、専門店、Eコマースなど)とその特徴。
  • 卸売業者:主要な卸売業者とその影響力。
  • 物流システム:輸送インフラ、倉庫施設、配送サービスの状況。
  • Eコマースの普及度:オンラインショッピングの利用率や主要プラットフォーム。

法規制

各国の法規制を理解し、遵守することは、スムーズな事業運営と法的リスクの回避に不可欠です。主な調査項目には以下があります。

  • 貿易規制:関税、輸出入規制、原産地規則など。
  • 品質基準:製品安全基準、表示規制、認証制度など。
  • 知的財産権:特許、商標、著作権に関する法律と保護制度。
  • 労働法:雇用条件、労働時間、最低賃金、社会保障制度など。
  • 環境規制:排出基準、廃棄物処理、リサイクル義務など。

経済状況

マクロ経済指標は、市場の潜在性や事業環境を評価する上で重要な情報です。主な指標には以下があります。

  • GDP:経済規模と成長率。
  • 人口:総人口、人口構成、都市化率など。
  • 所得水準:平均所得、所得分布、中間層の規模など。
  • インフレ率:物価上昇率とその傾向。
  • 為替レート:通貨の安定性と変動傾向。

文化・社会

文化的要因は、製品の受容性やビジネス慣行に大きな影響を与えます。主な調査項目には以下があります。

  • 言語:公用語、ビジネス言語、方言の状況。
  • 宗教:主要な宗教とその影響(タブー、休日など)。
  • 価値観:家族観、仕事観、時間感覚など。
  • ビジネス慣習:挨拶の仕方、名刺交換、会議の進め方など。
  • 消費文化:贈答習慣、ブランド志向、品質に対する考え方など。

海外リサーチが有効なケースと実践手法

海外リサーチは様々な状況で有効ですが、特に以下のケースにおいて重要性が高まります。各ケースについて、具体的な実践手法とともに詳しく解説します。

市場シェアと業界マップの把握

新規市場への参入や既存市場での戦略見直しを検討する際、市場シェアと業界マップの把握は特に重要です。主な情報収集方法は以下の通りとなります。

  • 情報源の活用:国立国会図書館のデジタルコレクションを活用すれば、対象国の産業統計や市場レポートを閲覧できます。また、日本貿易振興機構(ジェトロ)のJ-FILEを利用することで、各国の基礎的経済データや規制情報を収集することが可能です。
  • 業界レポートの分析:業界レポートの分析も市場シェアと業界マップの把握に有効です。例えばMergent Archivesでは特定の企業に関する詳細なレポートを入手できます。さらに、Euromonitorの業界レポートを参照することで、市場規模、主要プレイヤー、成長予測などを把握できます。

市場シェアと業界マップの情報は、海外展開戦略の策定において極めて重要です。例えば、競合企業の市場シェアが大きい場合、その市場に対して差別化戦略を打ち出す必要があるかもしれません。逆に、成長予測が高い市場では、積極的な投資やマーケティングの強化が有効です。

業界マップをしっかりと把握することで、自社の強みを最大限に活かしつつ、競争優位を確立するための戦略を構築することが可能になります。

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顧客・パートナーの発見

海外市場での事業拡大を目指す際、現地での販路開拓やパートナー選定は重要な課題となります。この課題解決に海外リサーチが有効です。

例えば、現地の産業構造やサプライチェーンを詳細に分析することで、自社製品・サービスの潜在的な顧客や販路を特定できます。ある機械メーカーが東南アジアの自動車産業のバリューチェーンを分析し、現地の部品サプライヤーが有望な顧客であると判断したとしましょう。

そこで、現地の商工会議所や業界団体のネットワークを活用することで、具体的な営業アプローチにつなげられます。このように、現地の産業連関表や企業データベースを活用し、自社製品・サービスに関連する産業や企業を抽出することが重要です。

加えて、現地の業界団体や商工会議所等を通じて、有望な顧客やパートナー候補についての情報を収集し、展示会や商談会に参加して直接的な商談機会を創出することも効果的です。

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販売拡大とシェア拡大

グローバル市場における売上やシェアの拡大は、企業の持続的成長を左右する極めて重要な課題です。この目標を達成するためには、現地の詳細な市場リサーチが欠かせません。例えば、現地の消費者が求める特定の機能やデザインを反映した製品開発を行えば、競合他社との差別化を図ることが可能になります。

現地の流通チャネルや販売パートナーに関する情報もまた、戦略策定において極めて重要です。例えば、特定のオンラインプラットフォームがその地域で急成長している場合、そのプラットフォームでの販売を優先的に強化することが求められます。また、卸売業者や小売業者とのパートナーシップを強化すれば、流通網の確保と効率化が図れます。

流通チャネルリサーチの詳細はこちらから。

バイヤーとユーザーのニーズ把握

海外市場での製品やサービスの販売成功には、現地バイヤーやユーザーのニーズ把握が不可欠です。現地リサーチは、このニーズ把握において決定的な役割を果たします。

BtoB市場においては、顧客企業が求める製品スペックや品質基準、価格帯、アフターサービスなどの情報を収集することが、成功の鍵となります。現地の主要な業界団体や企業にヒアリング調査を実施すれば、現地企業が求める性能やカスタマーサポートの基準が日本市場とは大きく異なることを発見し、それに基づいて製品設計や販売戦略を見直せるかもしれません。

バイヤーペルソナ調査の詳細はこちらから。

BtoC市場では、現地ユーザーのニーズ把握が欠かせません。現地の消費者の嗜好や購買行動、ライフスタイルを深く理解することで、ターゲットに合った製品開発や販促活動が可能になります。また、文化的背景の理解も、ニーズ把握において非常に重要です。宗教的な慣習やジェンダー役割、家族観といった文化的要因は、ユーザーニーズに大きな影響を与えます。

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さらに、経済状況や所得水準の把握も、ニーズ理解には欠かせない要素です。所得水準によって求められる製品やサービスのグレードや価格帯は大きく異なります。現地の経済状況を踏まえ、ユーザーの購買力に適合した製品戦略を立案することが重要です。

海外リサーチで役に立つフレームワーク

海外リサーチを行う際、様々な分析フレームワークを活用することで、情報収集と分析をより体系的かつ効果的に進められます。ここでは、主なフレームワークをご紹介しましょう。

PEST分析

PEST分析は、海外市場の環境分析において有用なフレームワークです。PEST分析は、Political(政治)、Economic(経済)、Social(社会)、Technological(技術)の4つの観点から、海外市場の環境要因を分析します。

  • Political(政治):現地の政治体制、政策動向、規制環境等を分析し、事業環境に影響を与える政治リスクを評価
  • Economic(経済):GDP成長率、市場規模、競争環境等を分析し、市場の魅力度や自社の競争力を評価
  • Social(社会):人口動態、文化、ライフスタイル等を分析し、ユーザーニーズや文化的文脈を理解
  • Technological(技術):技術動向、インフラ整備状況等を分析し、自社の競争優位性を評価

PEST分析を活用することで、海外市場の環境要因を多面的かつ体系的に分析することができます。

SWOT分析

自社の強みと弱みを分析し、事業戦略を立案するためには、SWOT分析が欠かせません。SWOT分析は、自社の内部環境を分析するStrengths(強み)とWeaknesses(弱み)、外部環境を分析するOpportunities(機会)とThreats(脅威)の4つの観点から、自社の競争力を評価するフレームワークです。

  • Strengths(強み):自社の独自の技術力、ブランド力、販売ネットワーク等、競合他社に対する優位性を分析
    Weaknesses(弱み):自社の製品ラインナップの不足、価格競争力の欠如、現地での認知度の低さ等、競争上の課題を特定
  • Opportunities(機会):PEST分析で得られた知見を活用しつつ、現地市場の成長性、未開拓の顧客セグメント、規制緩和の動き等、自社にとっての事業機会を探る
  • Threats(脅威):現地の有力競合企業の動向、代替品の台頭、為替リスク等、自社の事業展開に影響を与える外部要因を分析

SWOT分析を行う際は、自社の強みを最大限に活かしつつ、弱みを克服するための戦略を立案することが重要です。また、外部環境の変化を的確に捉え、機会を逃さず、脅威に備えることが求められます。

ポーターのファイブフォース分析

海外市場の競争環境を分析する上で、ポーターのファイブフォース分析は便利なフレームワークです。ファイブフォース分析は、産業内の競争構造を5つの要因(新規参入の脅威、代替品の脅威、バイヤーの交渉力、サプライヤーの交渉力、業界内の競争の激しさ)から分析するものです。

  • 新規参入の脅威:新たな競合企業が市場に参入する可能性とその影響度を分析
  • 代替品の脅威:自社製品の代替となる製品やサービスの存在と、それらが市場に与える影響を分析
  • バイヤーの交渉力:顧客の価格交渉力や要求水準の高さが、自社の収益性に与える影響を分析
  • サプライヤーの交渉力:原材料や部品の供給者が持つ価格決定力が、自社の収益性に与える影響を分析
  • 業界内の競争の激しさ:現在の競合他社との競争状況と、その将来動向を分析

例えば、自動車部品メーカーが中南米市場でのファイブフォース分析を通じて、現地の自動車産業の競争構造を詳細に把握したとしましょう。分析の結果、新規参入の脅威は比較的低いものの、現地のサプライヤーの交渉力が高いことが判明した場合、現地のサプライヤーとの関係強化に注力する一方、自社の技術力を活かした高付加価値製品の開発に注力することで、競争力の向上を図れるでしょう。

バイヤージャーニーマップ

バイヤージャーニーマップとは、顧客が製品やサービスを認知してから購入に至るまでの一連のプロセスを可視化したものです。

バイヤージャーニーマップを作成する際は、まず対象とする顧客セグメントを明確にします。そして、そのセグメントの顧客が、製品やサービスを認知し、興味を持ち、検討し、購入に至るまでの各ステージで、どのような行動をとるのかを詳細に分析します。

  • 認知ステージ:顧客がどのようなチャネルで製品情報を入手するのか、どのようなトリガーがきっかけで製品に興味を持つのかを分析
  • 興味ステージ:顧客が製品の詳細情報を入手するために、どのようなチャネルを利用するのか、どのような情報を重視するのかを分析
  • 検討ステージ:顧客が製品を評価する際の基準や、競合製品との比較行動を分析
  • 購入ステージ”顧客が実際の購入に至る決め手や、購入チャネルの選択理由を分析

バイヤージャーニーマップを作成することで、顧客の意思決定プロセスにおける重要なタッチポイントや、顧客が抱える課題や障壁を明らかにすることができます。これにより、各ステージにおける最適なマーケティング施策を立案することが可能になります。

海外リサーチの実施手順

海外リサーチを効果的に実施するためには、体系的なアプローチが不可欠です。以下に、海外リサーチの一般的な実施手順を詳細に解説します。

STEP1. 明確な目標設定

海外リサーチの目標設定では、まず自社のビジネス目標を明確にすることが重要です。新規市場への参入なのか、既存市場でのシェア拡大なのか、新製品の導入なのか、ビジネス目標によってリサーチの焦点が異なります。

例えば、新規市場への参入であれば、市場規模、成長性、競合状況、参入障壁等の情報が必要になります。既存市場でのシェア拡大であれば、自社の強みと弱み、競合他社の戦略、顧客ニーズの変化等の情報が重要になるでしょう。

目標設定の際は、SMART原則に基づいて設定することが有効です。SMARTとは、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限がある)の頭文字を取ったものです。

例えば、米国市場への新規参入を検討する際、以下のような目標を立てられます。

  • Specific:米国東海岸地域において、主要製品である高性能スマート家電の市場シェアを2年間で5%増加させる
  • Measurable:米国市場での初年度の売上を10億円に達成することを目指す
  • Achievable:現地パートナーとの協力を強化し、6ヶ月以内に主要な小売チェーンとの取引契約を締結する
  • Relevant:米国市場でのシェア拡大を通じて、グローバル売上の全体を20%増加させる
  • Time-bound:新規参入後の12ヶ月以内に、米国でのオンラインとオフラインの販売チャネルを整備する

このように初めに明確な目標設定をすることで、明確な目標設定に基づいて海外リサーチを実施することで、必要な情報を効率的に収集し、戦略の意思決定に活用できます。

2. リサーチ対象の絞り込み

効果的な海外リサーチを行うためには、リサーチ対象の絞り込みが極めて重要です。絞り込みを適切に行うことで、リサーチの焦点が明確になり、限られたリソースを最大限に活用できます。

まず、新規市場参入を目指す場合、対象国や地域を慎重に選定することが不可欠です。また、競合状況を分析する際には、市場における主要プレイヤーや参入障壁の高さを考慮し、競争優位性を確保できるかどうかを評価します。規制環境についても、例えばEUでは製品の安全基準が厳格であるため、リサーチ段階でそれらの規制に対応可能かを確認する必要があります。

既存市場でのシェア拡大を目指す場合には、ターゲットとする顧客セグメントを明確にすることが鍵となります。具体的には、自社製品がどのような消費者層に最も受け入れられているのか、人口統計データを元に分析します。例えば、若年層をターゲットとする製品であれば、SNSの利用状況や購買パターンを詳細にリサーチし、広告戦略を最適化することが重要です。

さらに、自社の強みと弱みを考慮しながら、リサーチ対象を絞り込むことも忘れてはなりません。強みを活かせる市場に注力し、弱みが足かせとなり得る市場は避けるべきです。

3. 適切なリサーチ手法の選択

効果的な海外リサーチを実施するには、目的に合致したリサーチ手法の選択が欠かせません。リサーチ手法は主にデスクリサーチとフィールドリサーチの2つに大別され、それぞれ異なる特徴と利点を持っています。

デスクリサーチは、既存の情報源を活用して広範な情報を迅速に収集・分析する手法です。例えば、政府機関の統計データや業界レポート、ニュース記事などを活用し、特定市場の全体像やトレンドを把握することが可能です。新規市場参入を検討する際、まずはデスクリサーチを行い、市場規模や成長性、競合状況などの基礎情報を集めるとよいでしょう。この手法は、短期間で大量のデータを取得できるため、初期段階での予備調査に最適です。

一方、フィールドリサーチは、現地での直接観察やインタビューを通じて、生の情報を収集する手法です。例えば、ターゲット市場に赴き、顧客インタビューを行うことで、顧客の購買動機やブランドに対する心理的反応など、デスクリサーチでは得られない詳細な示唆を得られます。これにより、製品の改善点やマーケティング戦略の精度を高めることが可能です。特に、現地の文化や習慣が購買行動に強く影響する市場では、フィールドリサーチが不可欠です。

リサーチ手法を選択する際には、リサーチの目的、予算、期間を慎重に検討する必要があります。例えば、新規市場の概況を素早く把握するためには、デスクリサーチが適しています。しかし、特定の顧客ニーズや市場の感覚を深く理解するためには、フィールドリサーチが必要です。

さらに、デスクリサーチとフィールドリサーチを組み合わせることで、リサーチの精度と信頼性を飛躍的に向上させることができます。

4. データ分析と可視化

海外リサーチで収集したデータを効果的に活用するためには、適切なデータ分析と可視化が不可欠です。これにより、リサーチ結果を明確に理解し、意思決定に役立てることができます。

データ分析の第一歩は、収集したデータの整理と前処理にあります。例えば、フィールドリサーチで得られたインタビュー記録やアンケート結果を整理し、テキストマイニングを用いて定性的データを定量化します。特に、顧客インタビューから頻出するキーワードを抽出し、顧客ニーズや不満点をカテゴリー別に分類することで、対象市場の全体像が浮かび上がります。このプロセスにより、具体的な改善点や新たなビジネスチャンスを発見できる可能性があるのです。

次に、整理されたデータを基に、統計的分析を行います。特定の市場での需要予測や、顧客セグメントの特徴抽出、さらには競合製品との比較分析を行うことで、データの背後にあるパターンや傾向を把握します。単なる数値の羅列ではなく、そのデータが示す意味やビジネスインパクトを解釈することが重要です。たとえば、特定の商品が特定の年齢層で圧倒的な支持を得ている場合、その年齢層をターゲットにしたマーケティング戦略を立てることができます。

分析の結果は、グラフやチャートなどを用いて可視化することで直感的に理解しやすくなります。

5. アクションプランの作成

海外リサーチの最終目的は、得られた知見をもとに、実際の事業戦略を形成し、具体的なアクションプランを策定することです。このアクションプランは、リサーチで得た示唆を具体的な行動に落とし込むための詳細なロードマップとなり、成功への鍵を握ります。

まず、アクションプランの策定においては、リサーチ結果から導かれた主要な示唆を整理します。たとえば、市場の特性や顧客ニーズ、競合の動向など、事業戦略に直接影響を与える要素を明確にします。これらの示唆をもとに、どのような戦略を立てるべきかを考えることが重要です。

次に、戦略を具体的なアクションに落とし込みます。現地の文化や消費者の嗜好を考慮したブランディング戦略、ターゲット市場に適した販売チャネルの構築、価格設定など、各戦略領域にリサーチ結果を反映させます。

さらに、アクションプランには、具体的な実行スケジュールと責任者を明記します。これにより、各施策の優先順位が明確になり、誰がいつまでに何を行うのかがはっきりします。例えば、新製品の発売を2024年の第2四半期に設定し、そのプロモーション戦略を3ヶ月前に開始する、といった具体的なスケジュールを策定します。こうした計画は、戦略の実行段階での混乱を防ぎ、スムーズな進行を確保します。

最後に、アクションプランの策定には関連部門の巻き込みが不可欠です。マーケティング、営業、製品開発など、各部門が連携し、リサーチの示唆を共有しながらプランを構築することで、一貫性のある戦略が形成されます。たとえば、マーケティング部門が現地のトレンドを踏まえて広告戦略を策定し、製品開発部門がそれに基づいて商品を開発する、という流れが理想的です。このようにして作成されたアクションプランは、組織全体が共通の目標に向かって動くための指針となり、海外市場での成功確率を大幅に高めることができます。

海外リサーチの成功に向けたポイント

海外リサーチを成功させるためには、単に情報を収集するだけでなく、その情報を適切に解釈し、効果的に活用することが重要です。以下に、海外リサーチの成功に向けた主要なポイントを詳しく解説します。

1. 信頼性の高い情報を選別する

海外リサーチを行う上で、信頼性の高い情報を選別することは重要です。特に、デスクリサーチにおいては、膨大な情報の中から、正確で信頼できる情報を見極める必要があります。

情報の信頼性を評価する際は、以下のような点に留意します。

  • 情報源の権威性:政府機関、業界団体、有名シンクタンク等、信頼できる機関が発信している情報かどうかを確認します。これらの機関は、通常、厳格な情報収集・検証プロセスを経ているため、信頼性が高いと言えます。
  • 情報の鮮度:情報が発信された時期を確認します。特に、市場動向や競合情報等、時間の経過とともに変化する情報については、できるだけ最新のデータを入手することが重要です。
  • 情報の一次性:情報が一次情報(オリジナルの情報源から直接得られた情報)であるか、二次情報(他の情報源から引用された情報)であるかを見極めます。一次情報の方が、情報の歪みが少なく、信頼性が高いと言えます。
  • 情報の裏付け:情報の根拠となるデータや事実が示されているかどうかを確認します。根拠が明示されていない情報は、信頼性に欠ける可能性があります。
  • 情報の整合性:複数の情報源から得られた情報を照合し、整合性を確認します。情報源によって内容が大きく異なる場合は、情報の信頼性に疑問が生じます。

信頼性の高い情報を選別するためには、情報リテラシーを高めることが重要です。信頼できる情報源を把握し、情報の評価基準を身につけることで、効果的な情報収集が可能になります。

2. 情報の更新:最新のデータに基づく戦略の見直し

海外市場の変化は常であり、一度収集した情報がそのまま有効であり続けることは稀です。したがって、リサーチで得た知見を基にした戦略は、常に最新の情報を反映して見直すことが不可欠です。

まず、定期的なモニタリングが基本です。市場の政治的、経済的な変動や新たな競合の動き、消費者トレンドの変化を見逃さないことが重要です。最新の業界レポートや現地のニュースを常にチェックし、得られた情報を即座にチーム内で共有することで、状況の変化に迅速に対応できます。

また、情報の鮮度を確保することも欠かせません。特に市場規模や成長率、シェアといった定量的データは、古いデータに頼ることなく、最新のものを使用する必要があります。仮に市場が急成長中と見込んでいたとしても、新しいデータでその前提が崩れた場合には、速やかに戦略の見直しが求められます。

仮説の再検証も常に行うべきです。初期のリサーチで立てた仮説が、現時点でも妥当であるかどうか、最新のデータに照らして確認します。例えば、新たな競合の登場や技術の進展が市場セグメントの魅力度にどう影響しているのかを評価し、戦略の妥当性を検討します。これにより、リスクを最小化しつつ、柔軟に対応できる戦略を維持できます。

3. 専門家の活用:リサーチ会社やコンサルタントの知識を活用する

海外リサーチを成功させるには、現地市場に精通した専門家の知見を活用することが効果的です。特に、自社に現地市場の知識やノウハウが不足している場合、リサーチ会社やコンサルタントの支援を受けることで、リサーチの質と効率を大幅に向上させることができます。

まず、リサーチ会社の選定は極めて重要です。現地市場に特化したリサーチ会社や、自社の業界に精通したパートナーを選ぶことで、的確な情報を得ることが可能です。リサーチ会社の実績や専門性、ネットワークを慎重に評価し、自社のニーズに最も適した会社を選びましょう。

次に、現地に精通したコンサルタントの活用も重要な戦略です。特に市場参入戦略の策定や法務、税務、人事などの専門領域において、現地の事情を知り尽くしたコンサルタントからのアドバイスは有益です。彼らの知見を活かすことで、事業展開のリスクを最小限に抑え、成功率を高めることができます。

さらに、現地パートナーとの協業も有効です。現地の有力企業や業界団体とのパートナーシップを築くことで、市場情報やネットワークといった、自社単独では入手が難しい経営資源を得ることができます。例えば、現地の販売チャネルを持つパートナーと協力することで、迅速かつ効果的に市場に参入することが可能になります。

しかし、専門家の知見を効果的に活用するためには、単に彼らの意見を鵜呑みにするのではなく、自社の戦略やリソースを踏まえた上で、得られた情報を吟味し、取捨選択することが求められます。また、専門家との連携をスムーズに進めるための社内体制の整備も欠かせません。専門家との連携を担当する窓口を設け、得られた情報を社内で共有するプロセスを整えることで、知見を最大限に活かすことができます。

専門家の活用には費用がかかりますが、コスト以上の効果を得られるでしょう。

まとめ

海外市場への進出を目指す際には、現地市場の調査が不可欠です。市場動向、競合分析、顧客のニーズ、法規制といった多岐にわたる情報を網羅的に収集することが、成功への鍵となります。ですが、ただ情報を集めるだけではなく、明確な目標設定、対象の絞り込み、最適なリサーチ手法の選定、データの分析と可視化、そして効果的なアクションプランの策定が必要です。さらに、信頼性の高い情報の選別や、情報の継続的なアップデートといったリサーチの質を向上させる工夫も欠かせません。

これらのステップを効果的に進めるためには、専門的な知識と豊富なリソースが求められます。もし自社内にそれらのリソースが不足している場合、海外市場での成功を支えるためのリサーチ業務を内製化するのは困難でしょう。そこで、信頼性の高い専門家の力を借りることが重要です。

弊社には、世界各国に配置された熟練のリサーチャーが揃っています。これらのリサーチャーは、広範なネットワークを駆使し、業界のキーパーソンや意思決定者への直接インタビューを通じて、インターネットや業界誌では手に入らない高品質な一次情報を提供します。

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