海外市場調査はなぜ失敗するのか
海外市場調査はなぜ失敗するのか
──デスクトップ調査では掴めない地政学・商習慣・商流の壁
日本企業の海外進出は、この10年で大きく変化しました。
人口減少、需要縮小、競争激化──こうした国内市場の制約から、多くの企業がアジア、中東、欧州、アフリカ、北米など海外市場へ戦略転換を進めています。
ところが、海外進出の成功率は依然として高くありません。
特にB2B企業や耐久消費財、食品・飲料、医療関連、工業製品領域では、進出後に次のような声が聞かれます。
「市場規模はあるはずなのに売れない」
「競合情報は調べたが、顧客の反応が想定と違った」
「現地パートナーが動かない・理解しない」
「価格戦略が機能しない」
実はこれらの多くは、マーケティング施策や商品力以前の問題です。
“市場の前提条件を誤っている” ことが原因です。
では、なぜ誤解が起きるのでしょうか?
理由はシンプルです。
●多くの日本企業は、海外市場を「公開情報」だけで理解しようとするから
海外市場調査の現場では、次のアプローチが一般的です。
- Google検索
- 統計データ
- コンサルレポート
- ニュース記事
- SNS分析
- AIリサーチ結果(ChatGPT・Perplexity等)
もちろん、これらは出発点として重要です。
しかし、それだけで市場の仕組み・関係性・意思決定プロセス・価格成立条件を把握できるかというと──答えはNOです。
理由は、海外市場には 視覚化されない構造(Invisible Layer) が存在するからです。
●海外市場調査が失敗する3つの典型的パターン
以下は、多くの企業で共通して見られるパターンです。
① 公開情報だけで市場判断してしまう
レポート上の情報は、あくまで「事実の表層」です。
例として、AIリサーチによる調査結果がこう示すかもしれません
- 市場規模:成長中
- 競合:存在するが差別化余地あり
- 顧客:高機能製品の需要増
- 投資環境:良好
しかし現場では:
「実際にはサプライチェーンが特定商社に握られている」
「取引条件は価格より“関係性”」
「代理店が既得権益を守るため、新規の参入を嫌う」
といった構造が存在することがあります。
これは公開情報からは見えません。
② 現地の文化・商習慣の違いを理解しない
日本企業は製品スペックや理性価値(機能性)を重視します。
一方、海外では心理的・社会的要素が意思決定に影響することが非常に多い。
例:
| 日本企業の想定 | 現地市場の実態 |
| 「性能が良ければ売れる」 | → 「信頼できる販売者から買う」 |
| 「価格が決め手」 | → 「アフターサポート・関係性が重要」 |
| 「現地代理店契約すれば展開できる」 | → 「代理店同士の力学・政治性が存在」 |
つまり、買われる理由が違うのです。
③ 意思決定者を誤解している
海外ビジネスでは「意思決定者=公式肩書き」ではありません。
鍵を握るのは次のような存在です:
- 現場責任者
- ベテラン社員
- 非公式リーダー
- 政治的に影響力を持つ人物
- 代理店側の担当役員
日本企業が提案先を間違えると、何年経っても商談が動きません。
●解決策:一次情報リサーチで「机上の市場」を「現実の市場」に変える
海外市場参入に必要なのは “市場にある情報”ではなく、“市場を動かしている条件”です。
その条件は次の形でしか取得できません:
- 現地キーパーソンへのインタビュー
- 顧客調査
- 販売代理店・商流構造分析
- 現地企業の背景調査
- 非公開情報の定性ヒアリング
- ネットワーク経由の信頼ベース調査
これらは、机上のリサーチやAIだけでは取得できません。
★ハイブリッド型調査プロセス(実務フロー)
| フェーズ | 手法 | 目的 |
| ① スクリーニング | AI・公開情報 | 市場仮説を立てる |
| ② 現場検証 | 一次情報リサーチ | 仮説と現実の差分を把握 |
| ③ 意思決定 | 経営レベル分析・示唆 | 戦略・参入判断・パートナー選定 |
特に②が欠落した海外進出は失敗リスクが高まります。
●結論:
海外市場調査に必要なのは情報量ではなく“現場解像度”である。
海外市場は「数字」ではなく「構造」で動いています。
その構造は、Google検索やAIでは手に入りません。
海外展開を成功させる企業は例外なく現場の声を聞き、関係性を理解し、本質的な意思決定基準を掴んでいます。
机上の分析に終わらせるか。
現場の実態を踏まえて意思決定するか。
そこが、成功と失敗を分ける分岐点です。
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